2006.02.12

瀋陽の夏2006

2006年5月1日から同年10月31日まで『2006中国瀋陽世界園芸博覧会』が開催されるそうで、2月6日に行なわれた説明会に行ってきた。

PICT7836


ウェブサイトの紹介文はあまりの機械翻訳っぷりで、なにがなんだかよくわからないのだが、要するに花博だ。

キャラクターは花ずきんちゃんではなく、中国では幸運を呼ぶ鳥と言われているカササギで、その名を「陽陽(やんやん)」。

愛・地球博で万博に目覚めてしまった方は瀋陽にGO! きっと混んでるぞ!(どないやねん)

説明会の来賓として現われた自由民主党幹事長の武部勤(画像中の矢印のお方)が、現地に友人がいるので個人で訪ねるつもりだったが結局のところ官費で訪問し大いに友好を深めてきたりして瀋陽には思い入れが深いのである、というようなことを前振りに、日中友好の深まりを期待するスピーチを行なった。そして5月1日の開会式にはぜひ出席したいと宣言してスピーチは締めくくられた。

なぜなら、5月1日はわたしの誕生日であり、結婚記念日だからであります

いや、そんな情報いらんから

スピーチを終えた幹事長は降壇したその足で退席。そのあと説明された2006中国瀋陽世界園芸博覧会の内容はさっぱり頭に入らず、武部氏の個人的な記念日だけが頭に残ってしまった説明会だった。


さて、瀋陽といえば淑子ちゃん(李香蘭こと山口淑子さん)に縁の土地だ。

1933年、13歳の淑子ちゃんは幼少時代を過ごした撫順から、約50キロほど離れた瀋陽へと引っ越した。

瀋陽は当時奉天と呼ばれ、満州国で一番の都会だった。ここで淑子ちゃんは隣に住む父親の友人李際春将軍の義理の娘となり、同年2月の春節に李香蘭の名を得た。

終戦の際には命を救ってもらうことになる同い歳のロシア人リューバ・モノソファ・グリーネッツと遊んだのもこの街だし、リューバの紹介でオペラ歌手マダム・ポドレソフに師事することになったのも、奉天放送局のラジオ番組『満州新歌曲』で歌手デビューしたのも、」この奉天だ。

いわば、李香蘭誕生の礎が築かれた街、それが奉天(瀋陽)なのである。

瀋陽には、李香蘭に関係のある奉天時代の建物が今も残っている。

平安座瀋陽市文化宮劇場
 淑子ちゃんは家族でしばしばこの劇場に通い、淡谷のり子ショーもここで見たらしい。

ヤマトホテル遼寧賓館
 山口淑子としてマダム・ポドレソフの前座に立ち、奉天放送局の目に留まった。

奉天放送局遼寧人民広播電子台
 李香蘭が歌う番組が制作され、放送された。

千代田小学校瀋陽市教育学院
 リューバが通っていた。

2006中国瀋陽世界園芸博覧会に行かれる方は、せっかくなので巡回されてみてはいかがだろう。ただし、10年前わたいが行ったときはそれぞれ残っていたが、今もそのままあるのかどうかは知らない。

淑子ちゃんは2005年には劇団四季『ミュージカル李香蘭』の初日に登場されておられたようで、無事で元気に過ごされているご様子なのはなによりだ。

なぜ6日のネタを今アップしているかというと、今日2月12日が淑子ちゃんの誕生日だからであります。

淑子ちゃん、誕生日おめでとう!

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2005.08.02

『萬世流芳』を観た

きみは『萬世流芳』を知っているか!

……そうか。残念だ。……しかしそれで話は終わらせないぞ。

『萬世流芳』は中華電映、中華連合と満映の合作映画で1942年に作られた。李香蘭こと淑子ちゃんが出演した作品のなかでも特筆すべきものだ。

満映専属女優の李香蘭はいかにも“日本寄りの中国人”に見られていたわけだが、そんな彼女が『萬世流芳』という作品において、純中国人俳優とスタッフに囲まれながら、端役ではなく、ストーリーに大きくからむ重要な人物のひとりを演じたのは、淑子ちゃん自身にとってエポックメーキングなできごとだった。

実際、この作品を通して俳優らと交流したことがきっかけになって、淑子ちゃんは満映を退社し、“日満親善スター”李香蘭を辞める決心をしている。

さて今、この作品が東京で公開されている。

李香蘭歴十余年のわたいが知る限り、戦時中に公開されて以来今回が初めてではないだろうか。

中国電影資料館から35mmフィルムを借りてきたそうだ。フィルム冒頭に「1981年長春電影洗印」とあったので、どこにあるか知っている人は知っていたのだろう。

かつて李香蘭主演の『私の鴬』が、フィルムの一部を失った状態で発見され、現存する部分だけではあるが松竹ビデオからソフトウェア化されたことがあった。あれも画期的なできごとだったが、『萬世流芳』の公開もまた画期的だ。

それでなくとも李香蘭を銀幕で見られる機会は滅多にない。

7月29日、平日の昼間にもかかわらず行ってきた。

14時30分受付開始、15時開演というスケジュールに合わせ、14時10分に到着。

既にロビーは超満員。シニアのみなさんの人いきれでむんむんだ。

“最後尾”のプラカードを持った職員に指示された場所に並ぶと、そのそばでカウンターをかちゃかちゃ押していた職員が「もう280人を超えた。そろそろ危ない」と言う。

そうこう言っている間に人はどんどん増え、1分後には300人を超えた。

定員は310名、立ち見はさせない方針。

ぎりぎりセーフ。ぼんやりコンビニなんか寄っていたらアウトだった。

さらに続々と集まってくる人々。受付をして券を売るのが14時30分なので、まだまだここから増えるだろう。先頭は2時間半前から並んでいたそうだ。有名テーマパークか。

観客はシニア率がとてもに高い。もともと企画自体がその世代の琴線に触れるのだろうが、それにしても戦後生まれの姿がほとんど見えない感じ。一般500円、シニア300円だそうだが、ことごとく200円取りっぱぐれているんじゃないだろうか。

人が並び過ぎたので、5分繰り上げて受付開始。この時点で並んでいるのは360人を超えていて、310人を超えたあたりから続いている「今からお並びいただいても難しいです」というアナウンスを聞き、諦めて帰った人を含めると400人は下らないだろう。

明らかに入れなさそうな人たちも一縷の望みをかけて並んで待つなかで、入場開始。

順番に2階へ上がり、そこで券を購入して館内へ。

もうほとんど空いた席が見当たらなかったが、前から2列めの真ん中(B-6)を確保。

なんでもいいが、帽子を被っている人は部屋に入っても脱がない。警備員から注意されても頑として取らない。何か帽子の中で飼ってるのか。

さて、『萬世流芳』。

「売糖歌」のテーマとともに題名が映し出される。

ひょっとしたら観賞しに行かれる方がいらっしゃるかもしれないので詳しくは書かないが、勝手に想像していたよりもよくできた作品で、151分の上映時間を飽きずに楽しめた。
登場人物がたくさんいるわりには脚本が整理されており、全員がきちんと本筋にからんで、最後に収束するように描かれている。監督が三人で寄ってたかって作ったとは思えない。

李香蘭が歌うシーンは三回。

「売糖歌」の一番
 「♪阿片を吸って、口直しに飴を舐めろ」と阿片との共存を認める歌詞で阿片窟の皆さんに飴を売る。

「売糖歌」の二番
 「♪ろくなことないから阿片を捨てて、飴にしとけ」と警鐘を鳴らす歌詞で、密かに思いを寄せる阿片依存症の潘達年の目を覚まさせる。

「戒煙歌」
 「♪達くん、目が覚めた? 人生を煙りにしちゃうとこだったのよ」と、阿片の後遺症を絶って社会復帰した恋人潘達年に語りかける。

いずれの楽曲もCDに収録されているので、聞くことができる。

・李香蘭(山口淑子)私の鶯 日本コロムビアCA-4382
・百代経典(一)李香蘭 百代EMI(マレーシア)7243 528797 24


映像も、せっかく日本語字幕も付いたことだし、ぜひソフト化していただきたい。買うぞ。


■次回上映予定
8月14日(日)16:00~ (151分)
 東京国立近代美術館フィルムセンター
 「発掘された映画たち2005
 定員:310名(各回入替制)
 発券:2階受付
 料金:一般500円、高校・大学生・シニア300円、小・中学生100円
 上映スケジュール

おそらく銀幕で観る最後のチャンス
お盆なので人が多いのか少ないのか読めないが、地元のみなさんには狙い目。開演が16時なので、15時着では甘いぞ。14時には並ぶつもりで行けばおそらく入れるだろうが保証の限りではない。自己責任で臨んでいただきたい。

では、みなさんご一緒に。
売~糖~呀、売~糖~

※以下、ちょっとだけネタバレあり。観賞予定の方は注意

・阿片窟を経営する社長夫婦など、英国人が数人出てくるが、すべて中国人俳優が演じている。ノーズパテで鼻を作り、金髪のカツラに白塗りメイク……女主人が森三中の村上にそっくりだったこともあって、彼らが出てくると「コント」みたいに見えるのが難点。
・完成作品は2時間36分(156分)だったそうで、李香蘭が演じる鳳姑は、夫となった潘達年を狙う暗殺者によって殺される……というが(資料:上海租界映画私史 清水晶)、わたいが観た作品は151分で、鳳姑の死ぬシーンはなかった。

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2005.01.15

「李香蘭」を生きて(2004年12月刊)

2004年の夏頃、日本経済新聞で連載されていた文章の単行本が、同年年末に発行された。山口淑子(以下、淑子ちゃん)の筆による「李香蘭」の自叙伝だ。

淑子ちゃんと李香蘭については、新潮社『李香蘭 私の半生』がこれまでのリファレンスだった。今回の『「李香蘭」を生きて』が『私の半生』のダイジェストになっている点は否めない。しかし、共著であった同書とは異なり、淑子ちゃんだけの言葉で書かれているのが値打ちだ。

淑子ちゃん自筆と思われる回想記は別にこれが初めてではなく、1993年に東京新聞出版局から出た『戦争と平和と歌 李香蘭心の道』もそうだった。戦後、山口淑子、シャーリー・ヤマグチ、そして大鷹淑子として生きてきた足跡が記されているという意味では、「李香蘭」に焦点を当てた『「李香蘭」を生きて』とはまた違う価値がある。しかしいかんせん一昔前の本だ。2004年に書かれた『「李香蘭」を生きて』には、約10年後の今だから書けることが加えられている。

端的な例だが、日劇の児玉英水が戦地で亡くなったときのこと。『李香蘭 私の半生』では今日出海から聞いた話が淡々と綴らているだけだ。しかし『「李香蘭」を生きて』では、短い文章ながら淑子ちゃんの感情溢れる表現が用いられている。そう書けるだけの、心の整理ができたのだと思う。

また、1998年にNHKで放映された番組『李香蘭 遥かなる旅路』を扱った章も組み込まれている。満映ゆかりの地を巡り、当時の関係者と会い、最後は音信不通になっていた幼なじみリュバ(従来の本ではリューバと表記)との53年ぶりに再会する様子を追った番組だった。番組の最後は再会の喜びでまとめられていたが、実は電波に乗らなかったリュバとの会話が、淑子ちゃんを動揺させていたという。淑子ちゃんにとって衝撃的な言葉だった。リュバは翌1999年に亡くなったそうだ。そのため彼女の言葉の真意は謎を残したままである。淑子ちゃんが何を告げられたのか、これも放映から6年が経っているからこそ書けたのだろう。

巻末付録の資料類(川島芳子の裁判記録、李香蘭ディスコグラフィ、出演映画一覧、簡易年表)も労作。

とりわけ川島芳子(金璧輝)の裁判記録に書かれた“中国国籍法の血統主義”は、同じく漢奸裁判にかけられた李香蘭がなぜ山口淑子であると認められ、放免されたのかを知るのに重要だ。同時に、日本の戸籍と戸籍謄本のなんたるかを、当時の中国の司法が正しく理解し認めたことにも、少々驚かされる。本当に“李香蘭”を裁きたければ、戸籍謄本を偽物と断ずることはもちろん、敗戦国の戸籍法を無視することさえできたのではないだろうか。裁判官の良心と判断に感謝する以外にない。この裁判の様子を、浅利慶太の劇団四季『李香蘭』では劇的な脚本で描いている。中国公演時にも喝采を浴びたシーンだそうだ。

以上、李香蘭そして淑子ちゃんに興味がある方は必読。

■「李香蘭」を生きて(私の履歴書)
 山口淑子
 日本経済新聞社
 1680円(税込)
 2004/12/17 初版発行
 ISBN:4532164923
 amazon.comで買う


さて、本の帯に、「テレビ東京系列でドラマ化」と刷り込んである。

すわ一大事、と1月9日、テレビ東京のお問い合わせ窓口に電話した。

お尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか
どうぞ
日本経済新聞社発行の(うんぬんかんぬん)そちらでドラマ化されるとあるのですが、いつ頃放映されるか予定などはわかりますか?
連休中でお答えできる者がおりませんので11日以降におかけ直しください

それももっともだ。でも、じゃあ「どうぞ」って言うな。

気を取り直し、1月12日に改めて電話。

お尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか
どうぞ
日本経済新聞社発行の(うんぬんかんぬん)そちらでドラマ化されるとあるのですが、いつ頃放映されるか予定などはわかりますか?
少々お待ちください。……一般の視聴者ですか?
「(え?)ええ、はい
お待ちください

 ……(一般視聴者じゃなければなんか特典でもあるのか? 取材申し込みもこの電話にかけてきたりするんだろうか)

はい
もしもし
もしもし編成部です
「(用件が通じてないのか)日本経済新聞社発行の(うんぬんかんぬん)そちらでドラマ化されるとあるのですが、いつ頃放映されるか予定などはわかりますか?
お調べします

 ……

お待たせしました。ドラマ化は正式に決定しているが、まったく予定が立っていないとのことです
今後予定が立った場合、例えば貴社のウェブサイトなどを見ればそれを知ることができますか?
あのー、今年中に制作できればいいんですけど、最悪の場合は来年になってしまうこともあるとの……
「(全然目処立ってないに等しいがな)わかりました。ありがとうございました

というわけで、2005年中にドラマ『「李香蘭」を生きて』が観られる可能性は大変低い。

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2004.02.12

祝生誕 山口淑子(李香蘭)

本日2月12日は、李香蘭、あるいはシャーリー・ヤマグチ、それとも山口淑子、はたまた大鷹淑子さんの誕生日。

祝生誕

女性の年齢なので具体的な数字は避けるが、淑子ちゃんは年女でいらっしゃる。ぜひ次回の年女も元気に迎えていただきたい。

李香蘭関連の本 以下、参考書籍。

《李香蘭/山口淑子》
■誰も書かなかったアラブ “ゲリラの民”の詩と真実
 山口淑子
 サンケイ新聞社出版局
 680円
 1974/04/01
 ISBN:なし ▲絶版

■李香蘭 私の半生
 山口淑子/藤原作弥
 新潮社
 1650円(本体1602円)※現行は1800円+税
 1987/07/20
 ISBN:410366701X
 amazon.comで買う

■李香蘭 私の半生
 山口淑子/藤原作弥
 新潮文庫
 560円(本体544円)※最終版は621円+税
 1990/12/20
 ISBN:4101186111 ▲絶版

■戦争と平和と歌
 李香蘭 心の道
 山口淑子
 東京新聞出版局
 1650円(本体1602円)※現行は1602円+税
 1993/09/19
 ISBN:4808304643
 amazon.comで買う

■次代に伝えたいこと ――歴史の語り部 李香蘭の半生
 道友社ブックレット
 山口淑子
 天理教道友社
 450円+税
 1997/08
 ISBN:4807304097
 amazon.comで買う

■李香蘭 二つの祖国に揺れた青春
 毎日グラフ別冊
 毎日新聞社
 2000円
 1991/06/30
 ISBN:なし ▲絶版

■李香蘭
 あすかコミックスDX
 藤田あつ子
 角川書店
 1000円(本体971円)※現行は971円+税
 1996/08/01
 ISBN:4048525654 △版元品切れ
 amazon.comで買う

《満州映画協会》
■幻のキネマ満映 ――甘粕正彦と活動屋群像――
 山口猛
 平凡社
 2893円+税
 1989/08/25
 ISBN:4582282202
 amazon.comで買う

■哀愁の満州映画
 山口猛
 三天書房
 2000円+税
 2000/03/01
 ISBN:4883460541
 amazon.comで買う

■満映 ――国策映画の諸相
 胡昶/古泉
 横地剛(訳)/間ふさ子(訳)
 パンドラ
 3200円+税
 1999/09
 ISBN:4768478077
 amazon.comで買う

■李香蘭と東アジア
 四方田犬彦(編)
 東京大学出版会
 4400円+税
 2001/12/20
 ISBN:4130800949
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■日本の女優
 四方田犬彦
 岩波書店
 2800円+税
 2000/06/28
 ISBN:4000263196
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■上海租界映画私史
 清水晶
 新潮社
 1748円+税
 1995/11/20
 ISBN:4104082015
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