腹ペコのSTファンの皆様、ようこそいらっしゃいませ。全国的に春が到来し、いい季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか。なんです、ENTが最終回を迎えようというのにいい季節も何もない、と*。のっけから荒れてらっしゃいますなあ、お客様。当店の料理をお召し上がりになって落ち着かれてくださいませ。
本日ご用意差し上げる当店のメニューはTOS第1シーズン「Space Seed 宇宙の帝王」から材を取りました。
はい? ENTとは縁もゆかりもないではないか、ですって? おや、私シェフ大泉、ENTゆかりの料理をお出しすると申し上げましたでしょうか。いえいえ、申し上げていませんとも。
実は私、年末に購入しました『宇宙大作戦 GALAXY BOX』をふた月ほどで見終えまして、そのなかでも印象に残っておりました料理を、今回再現してみようと考えておる次第でございます。
「宇宙の帝王」はご覧になりましたか? そうです、映画ST2「カーンの逆襲」の元ネタとなってございます、優生人間カーンが登場するエピソードですね。当時の吹替えではカンと呼ばれておりますが、どちらでもいいのでございます。
劇中、冷凍睡眠から目覚めたカーンの歓迎会が行なわれます。カーンにすっかりのぼせ上がりましたマクガイバー少尉のアイデアだったそうでございますな。いえ、冒険野郎ではございませんよ、歴史学者のマクガイバー少尉です。まあ、カーンと一緒にエンタープライズを離れて荒れた惑星の開拓に従事するあたり、冒険野郎と申し上げても間違いではないのかもしれませんが……。
その歓迎会で出された料理、映像をご覧いただくとお気づきのように、何やら赤いものが何やら白っぽい筒のようなものからびろ~んと飛び出しておりますね。
「こりゃまたすごいねぇ。宇宙艦隊の司令官でもおでましか?」
料理を見たドクター・マッコイはそうおっしゃいましたが、いったいその赤くびろ~んとしたものや、白い筒状のものが何なのかは映像だけでは定かでありません。
そこで、当店得意の推測がものを言うのでございます。
私の深い洞察と経験から申し上げて、白っぽいものはおそらく生のセロリでしょう。セロリの茎の部分は内側に湾曲しており、半ば筒のようになっております。おそらくそこにあの何やら赤いものを差し込んでいると見ました。
赤いものは植物のように見えますが、セロリに植物を組み合わせたのではメインディッシュとしてはやや力不足。草ばかりの料理で喜ぶのはヴァルカンだけで、優生人間をもてなすにはやはり肉系が欲しいところでしょう。
しかしあの尋常でない赤さとびろびろ感は、普通に焼いた肉では表せません。どうするか。そこで思いついたのがベーコンでございます。ベーコンなら、焼いたときの色味はもちろん、波打つ感じがびろ~んとした様子をも醸し出してくれそうです。
さあ、食材が決まったら早速調理に取りかかりますよ。
まずはベーコンを弱火で焼いていきましょう。びろびろ感を演出するために、端っこに切れ込みを入れておきました。塩と胡椒を少なめに振って、弱火で焼きます。
あまり焼きすぎると固くなり、のちのち加工しにくくなりますので、ほどほどに焼けたら火から上げておきます。
セロリは春が旬。肉厚なものを選んでご用意いたしました。セロリはカルシウムの吸収を助けるんだそうでございますな。なんでもその昔、ヨーロッパでは薬として重宝していたそうでございます。
などと申し上げながら、茎の部分をおよそ6~7センチに切り分けます。これが筒の部分になりますよ。これをベーコンから出た油の残る鍋で、弱火にて火を通して参ります。焦げ目が付くと仕上がりのイメージが劇中と著しく異なりますので、できるだけじわじわと火を通すのがコツでございます。
あ、セロリが苦手なお客様がいらっしゃいますか。そんなこともあろうかと、次善の策といたしましてネギの白いところも使ってみました。はい、セロリと同じ長さに切って一緒に炒めますよ。
火が通ったら、先ほど上げておいたベーコンの切れ目を入れてないほうを、セロリの湾曲した内部に押し込むように挟みます。カリカリベーコンですとこの工程で破壊されてしまいますので、柔らかさが残っていることが肝心なのです。

白ネギは包丁で縦に切れ目を入れ、中の芯を抜き取ります。そうすると、セロリ同様ベーコンを挟み込む隙間ができるわけですな。調子にのって抜き取ってしまうと皮しか残りませんので、そのあたりは調理人のバランス感覚が試されるところです。
最後の一枚を挟み込んで……さあ、これでできあがりました!
え? 簡単過ぎる? そう、簡単なのでございます。なにしろもてなす相手は宇宙の帝王。帝王たるがゆえに短気でいらっしゃることでしょう。なかなか料理が出てこないのではご機嫌を損ねかねません。素早くお出しするのも技のうちなのでございます。
とはいえ、これだけではあまりにも手抜き。私シェフ大泉としてはもう一捻りしたいと思い、ソースに凝ってみました。宇宙の帝王にお出しするソースですから、惑星連邦の宇宙艦隊をひと呑みにするという思いを込めて、艦隊カラーのソースはいかがでしょう。
では、カーク船長のコマンド部門、そしてスポック副長やドクター・マッコイのサイエンス部門、チャーリー機関長のエンジニア部門をイメージしまして、それぞれ辛しソース、青じそソース、オーロラソースを作りますよ。
コマンド(辛子)ソースは、胡麻油と酢、しょうゆをベースに、練り辛子を混ぜ合わせ、少量の砂糖かはちみつで味を調えます。辛子がだまにならないよう丁寧に混ぜましょう。サイエンス(青じそ)ソースは、すり鉢にオリーブオイルを垂らし、刻んだ青じそとおろしニンニクを加え、すりごまを少々と塩を振り入れて、すりこぎでよく混ぜ合わせます。青じそがすっかり砕けたらできあがりです。色は鮮やかな「青」とはいきませんがご勘弁ください。そしてエンジニア(オーロラ)ソース。これはマヨネーズととケチャップを2対1で混ぜ、適当に塩、胡椒を振ればよいのですが、今日はエンジニア系統の赤色がよりイメージしやすいように、1対1で混ぜてみました。
はい、艦隊カラーのソースが整いました。今度こそ本当にできあがりでございます。料理の名は、棒のような見た目と、宴を企画されたマクガイバー少尉に敬意を表しまして、「帝王の杖 マクガイバー風」とさせていただきましょう。

ささ、お好みの艦隊ソースでどうぞ。
……なんです、コマンドソースは辛い? そうでしょうそうでしょう、錬り辛子の量をレシピの「小さじ1」を読み間違えて「大さじ1」入れてしまいましたから。そうおっしゃると思いました。はあ、サイエンスソースは今ひとつ合わない? そうですか、手間が一番かかってるわりには、パッとしませんか、サイエンスソース。残念です。オーロラソースは意外といける? おやおや、一番簡単なソースが一番好評とは。世の中、そういうもんなんですかなあ。
お手軽にできてビールにもご飯にも合うメニューです。アルファ恒星系の第5惑星に入植される際は、ぜひレシピのひとつに加えていただけますよう。
帝王の杖 マクガイバー風
【Emperor's Cane a la Lt. Marla McGivers】
2人前
・ベーコン 6枚
・セロリ 2本
・白ネギ 2本
コマンドソース(辛し)
・胡麻油 小さじ2
・酢 大さじ1
・しょうゆ 大さじ1
・練り辛子 小さじ1
・はちみつ 適宜
サイエンスソース(青じそ)
・オリーブオイル 大さじ2
・青じそ 6枚
・おろしニンニク 小さじ1
・塩 適宜
・すりごま 大さじ半分
エンジニアソース(オーロラ)
・マヨネーズ 大さじ2
・ケチャップ 大さじ1
・塩 適宜
・胡椒 適宜
*この記事は2005年5月に『スタートレック公式ファンクラブ会報』のために書き起こしたものです