映画(やドラマ)の撮影では、ひとつのシーンを一発撮りすることは珍しく、細かいカットに分けて撮影を繰り返し、最後に編集作業で繋いで作品に仕上げることが多い。
何度も同じシーンを取り直したり、途中で休憩を挟んでやり直したりするときに、役者の立ち位置や姿勢、大道具小道具の場所や状態が変わっていては、繋いだとき不自然になってしまう。
それを避けるため、大勢いる映画スタッフのなかには、細々した撮影中の様子を記録して次の撮影や編集に活かすという地味な業務を淡々とこなす記録係という人がいる。
スクリプター(scripter)とも呼ばれるらしいその人は、今撮影しているテイクが前後のシーンと矛盾しないよう気を配ったり、撮ったばかりのテイクがどういう状態のものかを控えておいたり、とにかく細かいことを地道に、しかも完璧にやり遂げなければならないという注意力、観察力に記憶力と忍耐力を兼ね備えた、縁の下の力持ちだ。
しかしスクリプターも人の子、たまにはうっかりしてしまうこともある。
2時間近い映画には、たいていひとつやふたつ、そんなうっかりが見つかるものだ。
たとえば1979年(日本公開1980年)の映画『スター・トレック Star Trek: The Motion Picture』。
新たな生命体となったヴィージャーから開放され、やれやれ地球に帰ろうかという最後のシーン。
ブリッジの船長席のうしろに並んで立つ、スポックとマッコイ。

上着の左腕に付いている輪っかに注目。スポックはTMPでは科学部門を示す橙色、マッコイは医療部門を示す黄緑色の輪っかを装着している。
続いて、チャペル医師と一緒にブリッジへ入ってきたスコットから「バルカンまで送ろうか」と声をかけられ、「バルカンでの用事はもう済んだ」と応じるスポック。

このカットでももちろんスポック橙、マッコイ黄緑だ。
ところがカークがコースを指示する場面に変わると……

取り替えた!
服のサイズが違うのだろう。スポックはやや窮屈、マッコイはややぶかぶかの風だ。
少し目を離した隙に素早く着替え、息も切らさなければ姿勢も崩していないのはさすが艦隊の上級士官。
……とまあ、こういう超現象を極力減らすべく日々がんばっているのがスクリプターなのだ。
ところで、J.J.版『スター・トレック』では、この手の不思議な現象が全編を通じてしょっちゅう起きている。おそらく、スクリプターが小さなことを気にしない大らかな人柄なのか、監督自身が「こまけぇことはいいんだよ!」というタイプなのか、いずれかかその両方だろう。
このシリーズでは次回から、『スター・トレック』の謎めいた現象をいくつかご紹介する。
最近のコメント