ばっちこい
BSの某チャンネルでアニメ『忘却バッテリー』の番宣がちょくちょく流れている。
キャッチャーが面被ってミット構えて座りながら
「全力投球! ばっちこーい!」
と叫んでいるのだが――
誰に言ってんだ?
全力投球! ←ピッチャーへの声がけ
これはわかる。
だが。
ばっちこーい! ←?
ん?
ばっちこいは「バッチリ投げてこい」という意味ではなく、「バッター(オレんとこに)打ってこい」を縮めた掛け声だ。
転じて、一般社会では「準備は万全、いつでもいいぜ!」という趣旨で使われるが、こと野球の試合においてはみんながみんなこれを言うわけではない。
主に、強い打球の飛んで来がちな内野陣、右バッターが相手ならサードやショートが言う。
バッターに向けて「ほらほら打ってこいよ、どんな打球でも華麗に捌いてやんよ!」と、あおりつつ自分やチームを鼓舞する。
だから番宣みたいにキャッチャーがピッチャーへ向かって言う姿を見せられると引っかかる。
マウンドにいるピッチャー打ってこないし。
キャッチャーはバッターに向かっても言わない。
ホントに自分に強い打球が来たらどこ向いて打ってんだよって話だし。
ピッチャーも言わない。
ブラック・シャドーズ時代の花形満みたいな打球喰らっても困るし。
外野はたまに言うけどあんまり言わない。
強い打球が外野に飛ぶのはピッチャーがバッターに捉えられてるってことだし。
「打たせていこー」とかなら言う。「ワシらががっちり守るから安心して投げろ」という意味でピッチャーに向けて。
ベンチの控え選手や監督、コーチも言わない。
飛んできてもファールボールだし。ベンチ内で跳弾されたら危ないし。
バッターも言わない。
打つの自分だし。
審判も言わない。
石ころだし。
観客も応援団も言わない。
守備に就いてもないのに無責任だし。
番宣が流れ、キャッチャーが朗らかに高らかに伸びやかに「ばっちこーい!」と叫ぶたびに、誰に言ってんだよこの人、と気になって、作業の手を止めて画面見ちゃう。
気になり過ぎて『忘却バッテリー』てそもそもなんだろうと、設定を調べた。
「忘却」はキャッチャーの記憶喪失を指していた。
野球にまつわるすべての知識をなくしてしまった人なのだとか。
その忘れっぷりは、「ばっちこい」のひと言にじんわりと表れていた。
見事だ。
あ、また番宣流れた。また言ってる。
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